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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)102号 判決 1971年4月27日

原告

(イリノイ州)

ユニヴァーサル・オイル・プロダクツ・コンパニー

右代理人弁護士

猪股正哉

羽柴隆

上村正二

同弁理士

猪股清

野一色道夫

被告

特許庁長官 佐々木学

右指定代理人

狩野有

外一名

主文

特許庁が昭和四一年三月三日、同庁昭和三七年審判第三〇二六号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一、<略>

二、(一) 原告主張の審決を取り消すべき事由(一)について

先願発明の被処理物質であるサワー炭化水素蒸留物には本願発明の被処理物質である接触分解ガソリンが含まれること、先願発明と本願発明の第一工程がともにアルカリ溶液を使用し、同一の酸化剤および触媒を使用する方法であつて、その技術的構成が同一であることは、当事者間に争いがない。前者がメルカプタンの除去を目的とし、後者がチオフェノールの除去を目的とすることも当事者間に争いがないが、技術的構成が同一である以上両者は同一の効果を達成することが明らかであり、彼此区別することができないから、両者は同一の方法であると認めるほかない。原告は、両者の被処理物質が異なる、と主張し、被告もこれを争わないが、原告主張の被処理物質の差異は、両者の被処理物質中に含まれる不純物のうち、発明の目的との関係で意識されたものの差異に過ぎず、接触分解ガソリンが前者の被処理物質であるサワー炭化水素蒸留物に含まれることは前叙のとおりであり、接触分解ガソリンには不純物としてチオフエノールおよびフエノールが含まれることは原告の認めて争わないところであるから、原告主張の差異は右認定を左右するに足りない。

(二) 原告主張の審決を取り消すべき事由(二)について

右に判示したとおり、本願発明の第一工程は先願発明と同一の方法であるが、当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明は右第一工程の後にアルカリ洗浄によるフエノール除去の第二工程を組合せたものであることが明らかであるから、本願発明は外観上先願発明とその構成を異にするといわねばならない。しかし、右第二工程そのものが周知の方法であることは当事者間に争いがないので、第一工程と第二工程の組合せが周知であるか、または技術上無意味であることが証明されれば、本願発明は先願発明と同一発明であるといつてよいであろう。

そこで、右組合せが周知であるか否かについて判断するに、右組合せが周知であるというためには、接触分解したガソリンには不純物としてチオフェノールおよびフェノールが含まれることが周知であり、アルカリ洗浄して製品とすることが普通に行われていること(以下これを「慣用技術」という。)が証明されただけでは足りない。けだし、アルカリ洗浄の工程により接触分解ガソリンを製品とするという前記慣用技術には、工程の組合せという技術思想は全く含まれていないからである。したがつて、右組合せが周知であるというためには、先願発明や本願発明の第一工程と同様のチオフェノールまたはメルカプタンの酸化を行なう工程の後に、最終工程としてアルカリ洗浄によるフェノールその他の不純物除去の工程を組合わせることが、本願優先権主張日前当業者の間で周知であつたことが証明されなければならないと解すべきとろ、右事実を認めるに足りる証拠は全くない。却つて、ガソリン中のメルカプタンまたはチオフェノールを酸化する工程をもつガソリン精製方法、すなわち酸化法として本願優先権主張日前当業者間に周知であつたハイポクロライド法、ドクター法、塩化銅法、インヒビター法は、いずれも酸化の工程の前にアルカリ洗浄の工程を組合せたものであり、酸化の工程の後にアルカリ洗浄によるフェノールその他の不純物除去の工程を組合わせたものでないことは被告の認めて争わないところである。もつとも、右ハイポクロライド法は酸化の工程の後にもアルカリ洗浄を行なうものであるが、右アルカリ洗浄は、酸化の工程でガソリン中に混入した酸塩化物を除去するための工程であつて、フェノールその他の不純物を除去する工程ではないことが当事者間に争いがないから、このことは前記事実を肯認する資料にはならない。したがつて、本願発明の第一工程と第二工程の組合せは周知であるとはいえない。さらに本願発明の第一工程と第二工程の組合せが周知でないことは右に判示したとおりであるが、右組合せが技術上無意味であるとすれば、本願発明は、先願発明に周知のアルカリ洗浄の工程を無意味に附加したことに帰するから、なお先願発明と同一発明であると認めなければならないであろう。そこで、右組合せが技術上無意味かどうかを先願発明との関係で検討するに、先願発明を実施するに当つては、その工程の前にアルカリ洗浄によるフェノールその他の不純物除去の工程を組合せて実施するのが普通であることが認められるので、先願発明の実施においては、そのアルカリ洗浄の工程で回収されるアルカリ溶液にはフェノールのみならずチオフェノールも含まれることが明らかである。これに反し、本願発明は、前に判示したとおり、チオフェノール除去の第一工程の後にフェノール除去の第二工程を組合せたものであるから、第二工程で回収されるアルカリ溶液には、フェノールだけが含まれ、チオフェノールは含まれないことが明らかである。したがつて、原告主張のその余の作用効果について判断するまでもなく、本願発明の前記工程の組合せは技術上無意味ではないといわねばならない。

したがつて、本願発明と先願発明とはその構成を異にするといわねばならない。

審決は、前記慣用技術を理由として「各種精製操作を行つた後に最終工程としてアルカリ洗浄を行うのはガソリン精製技術上の常識と解される。」とし、したがつて本願発明の第一工程と第二工程との組合せ自体には「発明が存在しない」と認定している。そして、「発明が存在しない」ということは新規性のみならず進歩性も存在しないという意味であるから、審決の右認定は、本願発明の第一工程と第二工程の組合せは前記慣用技術から当業者の容易に推考できるものに過ぎない、という趣旨であると解するほかない。しかし、本願発明が先願発明と同一発明であるか否かは、本願発明の構成が先願発明の構成と同一であるか否か、換言すれば本願発明が先願発明に対する関係で新規性を有するか否かによつて定まるのであつて、本願発明が先願発明との関係で進歩性を有するか否かは、両発明が同一発明であるか否かの判断には無関係である。したがつて、審決の右認定は特許法第三九条第一項の解釈を誤つたものであるといわねばならない。

以上判示したとおり、本願発明と先願発明とはその構成を異にするから同一発明でないことが明らかであり、これを同一発明と認定した審決には原告主張の違法があるといわねばならない。

三、よつて原告の請求を認容……する。(服部高顕 石沢健 瀧川叡一)

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